第32回 日本伝統俳句協会協会賞
「水の賦」田中 黎子
風の出て川底の春動きだす
園児らの一塊の春橋渡る
舟下る春炬燵乗せ棹歌のせ
芽柳の風の重さの少し揺れ
手を添ふる水の別れや流し雛
春風や水の三叉路向くベンチ
詩聖恋ふ水も柳も清兵衛も
惜春の水尾舟唄の遠ざかる
川風の若葉の風となる舟路
舟芝居観るは船酔ひしたるやに
川薄暑並倉の辺の水澱む
水郷の舟みちたどる花茨
水音の刻むたまゆら花菖蒲
万緑の大きな影の流れゆく
舟唄へ頷いてゐる夏帽子
花合歓の風の名残のある舟路
白秋居訪へば汗引く土間暗し
水棹立て晩夏のしづくこぼす舸子
樹影濃き水の動かぬ残暑かな
柳川の水の匂ふや月の舟
舟灯り消せば望の夜の青む
月を指す水棹の長し女舸子
十六夜のどこか寂しき棹の音
立待や少し歪な川の闇
とんぼうの影のときをり水の空
柳散り水の流れの明かさるる
水あれば水を恋ふかに紅葉散る
花石蕗や舟音右へ曲がりゆく
果ててゆくもののやさしさ枯芒
炬燵舟水は眠りに入りつつ
第32回 日本伝統俳句協会新人賞
「小さな冒険」椋 麻里子
ひらがなの目立つさかさの年賀状
悔し泣きしてもう一度かるたとり
雪の朝小さき探検隊の跡
鬼の面つけて寝返る春隣
ままごとの一枚の葉に春を盛る
木箱出てひかりの中の雛かな
風に乗りふらここ高く空の旅
春の雨ぽろんぽろんと傘を跳ね
桃色のスカートふはり山笑ふ
おひさまが色をぬつたるしやぼん玉
口いつぱい夢を取り込む鯉幟
糸瓜苗植ゑて日陰を待つばかり
蟷螂の子のひよいと跳びひよいと逃げ
子目高の透き通つてゐる水の中
跣足の子ジャングルジムのてつぺんに
逃げ惑ふ影をめがけて水鉄砲
蟬時雨催眠術にかかる午後
星月夜小さき願ひを鏤めぬ
笹舟を湯舟に浮かべ夜の秋
笑ひつつ近づく小さき手にばつた
秋高し大縄跳びにまた一人
這ひはひの子も金メダル運動会
園庭は旅の終着小鳥来る
落葉舞ひあげて両手を高々と
ありつたけ落葉集めて潜り込む
落葉踏む子らの奏でし音楽会
蕪をぬく子ども三人がかりかな
冬の朝玻璃戸に絵描き歌の跡
ふゆごもり紙の動物園の中
大掃除いつしか宝探しへと
第32回 日本伝統俳句協会賞
佳作
第一席 「祈る日々」 水田むつみ
第二席 「丘の小学校」 生澤 瑛子
第三席 「闘鶏」 森脇 杏花
第四席 「誰も・・・」 大西としみ
第五席 「南氷洋」 和田 和子