12月の投句箱

丹頂の息も白い

「息白し」
大気が乾燥して冷え込むと、吐息が白く見える。
走ったり大声を出した時の豊かな白息が無性に懐かしいのは、コロナ禍の所為かも。

今回の選者

長谷川槙子(はせがわ まきこ)
鎌倉一条恵観山荘の庭園で見つけた「猪の目」(いのめ)。ハート形に見えます。
1962年生まれ
都内女子校の国語科講師。鎌倉に住み、吟行をこよなく愛する。
卯浪俳句教室講師。

特選1

息白し漬物樽を洗う母一日一笑

選評

寒気のなか冷たい水で樽を浄めているのは、漬物の得意な、自慢の母上なのだろう。労りの念をもってその姿を見守る、作者の息も等しく白い。

特選2

魚市場行き交う人の息白しえだまめ

選評

「行き交う」人を捉えたところが巧い。市場の潮の香や魚の匂いが動く。冬の早朝から始まる、尊い労働の白息。

特選3

出番待つブラスバンドの白き息砂山恵子

選評

各自がいまだ自由に呼吸をしている、本番前の吹奏楽団。息の白さは、一人一人の緊張感を鮮やかに伝える。

佳作

丹沢の向かうに富士や息白し菫久
ランドセル左右に揺らし息白し沙那夏
息白し巽の空が焼けている蝦夷野ごうがしゃ
息白き子らのにぎやかなる逮夜げばげば
朝礼の最前列や息白し淡海 なおあき
建前の女棟梁息白し闘魂
幼名で呼び合ふ畑息白しぶえもん
息継ぎを拾うマイクや息白し全速
白き息吐き行く人の若さかな青蛙
円陣の束の間の黙息白し田んぼ
地鎮祭響く祝詞の息白し莉恩
石段をのぼる緋袴息白しすずしろゆき
おみくじを読んでる君の息白し杏峯 寛
一食を待つ人の列息白し嘉門生造
牛乳を配る少年息白き工藤遊子

気になる句

息白し口で結はひてゐる天蚕糸
天蚕糸(てぐす)を自然に詠める優雅さに憧れた。薄緑の艶やかな糸に絡まる白き息。中七の表現が整うと、さらに妙。

選者吟

白息や母に押さるる車椅子槙子

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