6月の投句箱

五月雨

「五月雨」
陰暦五月、梅雨の時期に降る長雨のこと。
田植え時の大切な雨を、かくも雅な言葉で詠える俳人は幸い。
動詞「さみだる」も知っておこう。

今回の選者

長谷川槙子(はせがわ まきこ)
鎌倉一条恵観山荘の庭園で見つけた「猪の目」(いのめ)。ハート形に見えます。
1962年生まれ
都内女子校の国語科講師。鎌倉に住み、吟行をこよなく愛する。
卯浪俳句教室講師。

特選1

さみだれや沖に巨船の横たはる山海和紀

選評

沖合の巨船は、五月雨に烟って晴天時以上の全長を感じさせる。その圧倒的な存在感を、沖に「横たはる」と言い得て妙。

特選2

五月雨や入口狭き献血車GONZA

選評

献血車の入口は小さく、身を縮めて乗り込む。折しも鬱陶しい長雨の季節、良い事をする時くらい堂々としていたいものである。
季語が自然に置かれているのが好い。

特選3

五月雨の田に人影の忙しきますみ

選評

 「人影の忙しき」という表現に惹かれた。青梅雨にあっても楽しそうに働く人々。
遠くの田に人の気配があって、益々ゆかしい景となっている。

佳作

五月雨の隅田川行く屋形船小林浦波
五月雨るる畑中をゆく影二つ五福
五月雨や渡り廊下に灯のともり久森ぎんう
五月雨や畑に無人販売所中島容子
五月雨や古書の匂いのする茶店前田麺
五月雨や田圃の中の通学路みずな
歌舞伎座を出て五月雨の街しづか遊羽女
五月雨や木立のなかの奥の院茫々
五月雨やあの子に会いに走ってく大野美波
五月雨や雫輝くランドセル蛾触
五月雨や龍の目動く天井画dragon
五月雨の耳にやさしき寝覚めかなまこと
さみだるる藩の名残の櫨並木伸瑚
山頭火の母恋ふ一句さみだるる藤田康子
五月雨や母に抱かれし日の記憶せつこ

気になる句

五月雨やさみしいほうの掌を濡らす
「さみしいはうの掌」という措辞に詩心を感じた。
ただ「濡らす」は作為を感じさせる表現なので、「掌が濡るる」「掌が濡れて」等、自然に濡れたことにしてみては。

選者吟

古書店の奥に伽羅の香さみだるる槙子

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