3月の投句箱

蜷

「蜷」

蜷の棲む流れも少ないが
我が家の水槽をきれいにしているのは蜷です

今回の選者

山本素竹(やまもと そちく)
山本素竹のアイコン
1951年生まれ
書と篆刻の個展を続ける
朝日俳壇賞、日本伝統俳句協会賞など

特選1

子の水槽蜷と海老とが残りけりよしこ

選評

子供の水槽、そこには捕えてきた水の生き物が入っていたのだ。そして、おそらく本命だった魚の姿は今はそこにはない。動物好きで、しかも飽きやすい子供の様子が描かれている。付録と思しき生き物が残っているところが面白い。

特選2

震災の傷跡未だ蜷の道宏楽

選評

日本列島を襲った様々な震災が記憶に新しい。そして、復興事業などの遅々とした歩みを連想させる一句。その当事者かもしれない作者の眼を感じる。蜷に向ける視線と、復興事業に向ける想い。蜷を通して大きな景が描かれている。

特選3

蜷捨てる虫取り網を裏返し珍酒

選評

網の本当の目的は違うものにあることがわかる。残念ながら季題の蜷は邪魔者扱いだが面白い。魚をすくおうとして小石や蜷が入ることは小さい頃経験済みだ。いらない物を捨てる「網を裏返し」の描写が一句に命を与えている。

佳作

小石落ち波紋からまる蜷の道とんぶりっこ
擦り減りし鍬を洗ふや蜷の水久森ぎんう
殻すこし遅れて蜷についてゆく多々良海月
水槽を窓ふくように蜷のゆく北青山一句
水槽の玻璃越し蜷に口のありごぼうの花
少しづつ書き足すやうに蜷の道郁李
木洩れ日によくあふ蜷の静かさよ夕空かのこ
蜷の道さざ波の編む光かなぶえもん
蘇る川の流れの蜷の道のり女
清流に蜷を数へし飼育員伊藤花径
妻介護どこまで続く蜷の道森 佳月
あっちの水もこっちの水も蜷の道笑子
清水をじっと動かぬ蜷の殻長ズボンおじさん
いまいずこ田んぼも消えて蜷もなし北青山2号
せせらぎに撒く川蜷よ村おこし葦たかし

気になる句

名も知らず小石と共に捨てし蜷
さて上五の「名も知らず」は何の事を言っているのでしょうか。蜷のこの句にとって必要のない部分のようです。中七下五ができていて十七文字にするための五文字に見えます。誰しもそのような経験はありますが、多くを言うより軽く済ませる方が効果的です。写生の現場だったらどうでしょう。たとえばどこに捨てたのでしょう。砂か泥か、草の上か。力まず、何気なく、情景など入れるのも一つの方法ですね。

選者吟

一晩で消えてしまひし蜷の道素竹

Web投句箱への投句はこちらから

今月のweb投句はこちらのページで募集しています。
ふるってご参加ください。