第36回協会賞受賞者・日本伝統俳句協会常務理事 抜井諒一
俳句では概ね、一句で鑑賞する場合と、いくつかの句を一括りに鑑賞する場合があります。後者は「連作」や「群作」などと呼ばれ、一句単体とは異なる表現が可能です。例えば、オーギュスト・ロダンの有名な作品に「考える人」があります。この作品は『地獄の門』として作られた群像の一つで、門の頂上に取り付けられていました。単体の像として鑑賞する場合と、地獄の門の中の群像の一つとして鑑賞する場合では、作品は同じでも印象が異なるはずです。
このように、俳句もいくつかの作品群で鑑賞することで、その全体から作者のより深い世界感が見えてきます。日本伝統俳句協会で設けている「新人賞」と「協会賞」も、応募対象は未発表の三十句となっており、一句単体ではなく、作品群で評価されています。この項では、まとまった数の句をひとつの作品として仕上げる際のポイントを、私なりに5つに分けて紹介したいと思います。
ポイント1「個から全へ」
十句、三十句など、作品をまとめる数が決まったら、まずは実際に句を揃えてみましょう。規定数が十句なら十五句、三十句なら四十句のように少し「予選」を取っておくと良いでしょう。その理由は後述いたします。ここでのポイントは、「一句が独立していること」です。つまり、作品群の中から一句を抜き出して鑑賞した時に、意味が通じるか、一句ずつチェックしてみてください。前述した「考える人」と同じですね。
ポイント2「自然な流れを」
数が整ったら、今度は全体の構成をみましょう。ここでのポイントは、「自然な流れ」になっているかです。春から始まった句群が途中で冬に戻っていないか、主人公がころころ変わっていないかなど、季節の運行や作中の主体に不自然な点がないか、読者として作品に接した時に、自然に読める流れかをチェックしてみてください。不自然な点があれば、句の配置を変えてみましょう。また、作中の主体がころころ変わっているようであれば、予選の中から句を入れ替えて調整します。
ポイント3「きずを無くす」
ここまでくるとだいぶ作品が固まってきました。そろそろ仕上げの作業にかかりましょう。ここでのポイントは作品の「きずを無くす」ことです。つまり、一句一句の「仮名遣い」が間違っていないか、同じ「切れ字」や「季題」が羅列されていないか、助詞、いわゆる「てにをは」が適切か、その他、文法や用語などの誤用をチェックしましょう。例えば、句の型は違うけれど内容が似ていたり、内容は違うけれど句の型が似ていたり、句の構成に「同工異曲」な印象を受けないかなども注意します。同工異曲になっている場合は、一句を推敲したり、予選から句を入れ替えたりして、作品の「きず」が無くなるように調整します。
ポイント4「勝負の一句」
ここまでくれば、作品のまとめはほぼ完成といえましょう。これまで、粒ぞろいの一句を自然な流れで配列し、きずの無いように内容を点検してきました。より魅力的な作品になるように、ここで少し冒険してみましょう。例えば、三十句の中で一句だけ「字余り」の句を入れてみるとか、「破調」や「季重なり」の句でも良いかもしれません。また、型だけではなく内容に関しても、「おっ」と読者の目がとまるような一句を置いてみましょう。一句といわず、いくつか混ぜても良いかもしれません。そういった、いわゆる「冒険句」を入れることも作品を魅力的にする演出のひとつです。つまりは、定石を外れたところに、作者の志や独自の文体が色濃く現れることがあります。それは無論、「勝負の一句」となり、読者の心に鮮明に残るはずです。その一句をどこに配置するか。序盤に置いて劇的な始まりにするか、中盤に置いて緩急を付けるか、終盤に置いて余韻を持たせるか、作者の腕の見せどころです。巧くできた句をただ季節の流れで配列して編んだ作品か、作品を編む上で新たな境地を探るような作品か、後者の方が華のある作品なのは、いうまでもありません。
ポイント5「タイトルの印象」
さて、最後の仕上げです。練り上げてきたこの作品群のタイトルをバシッと決めて完成です。人によって、例えば作品をまとめるにあたって一貫した「テーマ」が決まっていれば、すでにタイトルが決まっている場合もあるでしょうし、ポイント4で説明した勝負の一句など、一押しの句のフレーズから採る場合もあるかと思います。タイトルは作品全体を象徴するもので、まず読者が目にするものです。タイトルに作者の価値観が現れるといっても過言ではありません。さらりと「季題」を置くのもひとつでしょうし、句の内容にとらわれず全体をイメージする「フレーズ」を置くのもひとつだと思います。ポイントは「タイトルの印象」です。そのタイトルの本が書店に並んでいたら、自分は手に取るか、考えてみてください。無論、沢山ならんだ背表紙の中で、心に引っかかるものがないと、通り過ぎてしまうでしょう。タイトルを薄味にして作品群を立たせるか、濃い味つけにして作品群とは異なる重みを持たせるか、いずれにせよ作品の「顔」となるタイトルは、まとめた作品が精彩を放つか欠くかに関わるほど、重要な部分です。