第29回 日本伝統俳句協会賞
「牧の初雪」安田豆作
広く散る花アカシヤの高さかな
ぶつかつて来し牛虻の目の翠
牧に踏む土の匂ひや夕立晴
枝垂れがちなる白樺の晩夏かな
川幅を溢るるほどの赤蜻蛉
雲うごく刺さりさうなる三日月に
牛産むと二十三夜を灯しをり
蔓もどき吹かれて大き弓のごと
ハンドルで秋山回し牛運ぶ
牧の辺に鴉屯す暮の秋
乳離れの間近き馬や初時雨
殊のほか凩さわぐ楡大樹
底冷をこらへる言葉交はしつつ
夕日差す牧の初雪消えぬまま
この空を星に任せて日短
鳥の声今朝は遠くに白鳥も
雪食らふ犬たち牧に戯れて
煌々と牧の隅々まで真冬
寒極む夜空に牛の浅ねむり
音の無き小川のくぼみ深雪晴
放れ駒地吹雪に影吹き消され
ふと夜風優しさ見せて春隣
ラジオ点け春待つ夜々をつなぎけり
馬すべて売りたる牧舎春寒し
凍返る深き轍をそのままに
うかれ猫片足上げて固まりぬ
川岸の音まさりつつ大雪解
燦然と牛の尿する春の風
犬嗅ぎまはる陽炎を追ひかけて
ふきのたう雲は光を遮らず
第29回 日本伝統俳句協会新人賞
「星影に」大久保 樹
星ひとつ消えて初東雲となる
夕づつの明りもらひし冬灯
待春のこころをシリウスの照らす
暁の星を清めてをりし東風
花明りその奥にある星明り
春の闇ほころびて星きららなす
万年の星の彼方へ遠蛙
浅き夢春の星よりこぼれ落つ
晨星の光の灯す花辛夷
藤棚の隙間に星座ひと欠片
星々を焦がすきほひの花篝
ふらここや一番星に触るる足
風染めて星まで染めてラベンダー
しんしんと星に伸びゆく新樹かな
光るもの川辺の星と蛍と
短夜を光り残して明けの星
椎の香に倦みたる星の重さかな
望郷の眼差し深し星涼し
夜濯を星に預けて仕舞ひけり
金魚にも分けくれし星明りかな
希望とは無尽銀河の星ほどに
若き日の夢はそのまま星今宵
湖の黙へたばしる流れ星
万丈の星の光も冷やかに
満目の星の静寂に秋の声
一粒の星に始まる夜寒かな
月影も星影もあり大根干す
寒林のあからさまなる星夜かな
深閑と星の煌く霜夜かな
句の道は遠し遥かに冬銀河
第29回
日本伝統俳句協会賞
佳作
第一席 「福島 2017」 赤間 学
第二席 「流氷の闇」 松井 秋尚
第三席 「風の芒」 池田雅かず
第四席 「母 港」 竹岡 俊一
☆佳作作品および選考経過は「花鳥風月」3月号に、本選選者の選評・受賞者のことばは4月号に掲載しております。