第36回 日本伝統俳句協会賞
花下残影 抜井諒一
居酒屋の裏はまつくら初桜
花の闇から瀬戸物を洗ふ音
参道の一夜に花茶屋のあまた
旅止めて近所の花を見ることに
さかしまに鳥の尾揺るる花の枝
花めぐり荷よりも小さき児を連れて
ひと房のひかりぼつてり花曇
満開の桜の中の駐屯地
ことごとく赤子寝てゐる花の昼
弁当を広ぐ桜に背を向くる
自己紹介直立不動花莚
花莚たたみて会社へと戻る
なりゆきにまかせてをれば花人に
こんなにも桜と人とゐて独り
人と観る色一人見る花の色
花下の紙芝居に小さき人だかり
靴の跡だらけとなりぬ花の下
麓から鐘の音かすか夕桜
花を背にすれば殺風景な街
花あかり潜る回転木馬かな
夕影の薄れしよりの花明かり
ひとつとて同じ風筋なき落花
大方は散りくつきりと花の影
巡り来て最後は故郷の花へ
拾ひ集めし花屑をぱつと捨て
丘からも対岸からも飛花落花
目の前は止みて遥かは花吹雪
散る花に後ろ姿の人ばかり
藩邸の跡地に残る桜かな
残花より又もひとひら尚ひとひら
第36回 日本伝統俳句協会新人賞
該当作なし
第36回 日本伝統俳句協会賞 佳作
第一席 「こちらまで」 渡辺檀
第二席 「会陽」 勝村博
第三席 「天草の旅」 田中黎子
第四席 「神無月」 渡辺光子
第五席 「五階席二列九番」 武井禎子
佳作の作品は機関誌「花鳥諷詠」3月号に掲載
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