第35回 日本伝統俳句協会賞・受賞作品紹介

第35回 日本伝統俳句協会協会賞
阿波踊 勝村博

阿波踊ぞめき流るゝ駅に着く

灯されて踊の街の浮き上がる

待ち合はす茶房混み合ふ踊の夜

交差して踊子連でありにけり

踊場の繋ぐぞめきを出入かな

高張の失せ踊子の迷ひたる

踊浴衣蹴出し直して出番待つ

高張を上下に揺らし踊り込む

阿波踊二拍子の楽はじまりぬ

踊見の熱気前から後ろから

隙間なき熱気踊の輪となりぬ

踊子を統べたる鉦の一打かな

踊子の決めの構となる静止

踊太鼓音波は玻璃を揺るがせて

踊囃子搔き消してゆく驟雨かな

踊り出す見やう見真似のにはか連

足だけで踊る子を抱くにはか連

踊場を食み出す勢にはか連

踊団扇夜風を捌き空を切る

太刀持ちも侍りし踊大名連

大名連小姓従へつゝ踊る

奴踊万の視線を手繰り寄す

肩で息弾ませ終りたる踊

人波と楽の坩堝や総踊

踊唄憩ふ川辺に流れ来る

川風に憩ひ踊の余韻解く

踊の夜街眠らざる灯しかな

踊の夜街ひと塊の不夜城に

街の灯のなほ煌々と踊果つ

車列の灯四方へと伸びて踊果つ

 

第35回 日本伝統俳句協会新人賞
栞紐 一倉小鳥

三島読む革ジャンパーの女かな

本棚の軋む音して冬の雨

手にとりてひらく聖書や十二月

読初の机に置かれマグカップ

寒紅の指で書物をめくりけり

風花や絵本をひらく子の髪に

待春の古書百円で売られけり

うすらひに透けて深紅の栞紐

受験子の鞄にコナンドイル哉

積まれたる書類に眠る春の猫

新聞にアスパラガスの包まれて

本郷の連子窓よりはるともし

花守はボードレールの詩集手に

春愁の便りポストに蠢きて

青蔦は外階段を摑みけり

夏手套ハイヤーに触れ客迎ふ

香水のしみて女の本となる

ひらがなを連ねるやうに雲の峰

苗売の雑誌をめくる指紋かな

図書館の建て替へられて姫女菀

虫図鑑植物図鑑三尺寝

夜濯を終えて一人の時間かな

長き夜のふと手に日本料理の本

物語うまれるところ花野道

キャンパスの閉まる扉に色鳥来

実石榴を手紙の上に置きにけり

帯紙にぽとぽと零し今年酒

貸本に秋思の黒線引いてあり

ラジカセは古びて店の檸檬生る

紙切れの埋もれながら黄落す

 

第35回 日本伝統俳句協会賞 佳作

第一席  「園枯る」 渡辺光子

第二席  「古都の祈り」 長谷川槙子

第三席  「春の土」 真篠みどり

第四席  「産声」 椋麻里子

 

佳作の作品は機関誌「花鳥諷詠」4月号に掲載

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