第33回 日本伝統俳句協会協会賞
「はつけよい」鈴木 風虎
松過ぎて両国渡る触れ太鼓
初場所や四股に封ずる悪鬼邪気
砂かぶり春著の袂庇ひつつ
もうもうと巨体湯気立つ寒稽古
猫やなぎ走る相撲部柔道部
豆まきの華つややかに大銀杏
柏鵬を昔語りに春炬燵
看板の美男力士に花はら/\
風薫る出世披露の土俵入
さやさやと行司溜は夏姿
芳はしき鬢付油梅雨に入る
飯櫃を空にされたる鮓屋かな
肌脱に若さ眩しきちやんこ番
汗と砂洗ひ流して明日の糧
横綱の遥けき故郷大夕焼
入り待ちに出待ちに並び秋暑し
千早振る神ことのほか相撲好き
境内に秋の祭のはつけよい
太やかに塩撒くかひな天高し
堂々たり親子三代相撲取
一本道これ渾身の押相撲
爽やかや小兵業師の背負ひ投げ
川風に月も出でたり跳ね太鼓
どの部屋のおかみさんにも十三夜
菰樽でご当地新酒積み上る
初しぐれ髷に傘さす柳橋
二年越し博多初日の小春かな
凩や雪駄に替はるスニーカー
大関はサンタクロースよく似合ふ
除夜の風大屋根を巻く国技館
第33回 日本伝統俳句協会新人賞
「花恋し」宮内 千早
初花の予感にくぐりゆく鳥居
初花にはじめての雨当たりたる
枝にふれ花びらにふれ花の雨
花の雨まもなく上がる鳥の声
あはゆきの雫はげしき朝桜
啄まれくるくる舞ふや朝桜
気にされぬくらゐの長居花の下
一枝に濃きも淡きもある桜
迷ひゐるピンクとピンク花衣
強風の花見なら肩よせ合ひて
気づかないふり花人になりきつて
夕桜空より先に暮れはじむ
離れれば消えてしまひし花明り
コロナ禍や花雪洞の灯らざる
花雪洞とぎれ夜空の戻りたる
入院の知らせを兼ねる花便
花莚大きく広げ句会かな
花莚文字書くための膝小僧
息上げてのぼる古墳や花万朶
残花なら静かに散つてゆく自由
こんなにも激しき風を残る花
釣人の背中のゆるび水温む
釣糸の落花の水へ放たるる
落花ごと外されてゆくトタン屋根
飛花落花大工道具の昼休み
花の茶屋柱のこして遺跡めく
急流へ消える速さよ花筏
仰ぎみることにも飽きて花は葉に
木漏れ日のあふるる園や花過ぎて
葉桜の色濃き音へ変はりたる
第33回 日本伝統俳句協会賞 佳作
第一席 「神戸三十景」 藤井 啓子
第二席 「北大農場」 音羽 紅子
第三席 「一、二、三、四、五」 多田羅 初美
第四席 「看護師として」 多田羅 紀子
第五席 「浅草に四季」 藤森 荘吉
佳作の作品は機関誌「花鳥諷詠」4月号に掲載
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