11月の投句箱

小春(こはる)

「小春(こはる)」
「小春」は陰暦十月の異称ですが、季題としては、
冬の初めの穏やかな日和の意味で使われます。
「小春日」「小春日和」もほぼ同じように用いられます。
「小六月(ころくがつ)」という言い方もあります。

今回の選者

田丸千種(たまる ちぐさ)
田丸千種のアイコン
日本伝統俳句協会本部講師 俳歴30年
第26回日本伝統俳句協会賞受賞
句集『ブルーノート』で与謝蕪村賞奨励賞

特選1

十五分時計すすませ母小春温故知新

選評

わざと時計の針を進ませておく人がいる。
この母は、自身が15分ほど余計に時間がかかると思っている。
あるいは、1日を15分延ばして暮らしを楽しんでいるのか。
どちらにせよ、15分も時計を進ませる母を、作者はほほえましく愛おしく見ている。
小春日をゆっくりゆっくり、母も子も……。

特選2

針山の影やわらかな小春かな橄欖子

選評

小春のイメージは「やわらかい」。
だから「やわらかな小春」は意味がダブる……とみる向きもあるかもしれない。
でもおよそやわらかくない「針」の影が面白い。
針箱を日常生活に見かけない昨今は、「針山」という言葉も郷愁を帯びる。
「小春」は人皆を優しく、懐古的にさせる。

特選3

地獄蒸しプリン掬ひて小春かな由づる

選評

「地獄蒸しプリン」とは???……温泉地で売られるプリンであろうと勝手に想像。
そして作者もまたその名を面白がって購入、地獄の甘さを口いっぱいに味わっているのである。
プリンひとつで行楽地でのまったりしたしあわせ感が描かれる……小春日ならでは。

佳作

小春日や大の字に寝るオランウータンモペット
干すシャツの影かろやかに小春風山太狼
トンネルとトンネルつなぐ小春かな比々き
小春日や末社にをはすねこ二匹山茱萸
浮見堂へ波うかれゆく小六月梅花人
小春日やロバのパン屋のクリームパン彩楓(さいふう)
鬼の子の貌覗かせる小六月こいちゃん
小春日や鼻緒すげ替え神楽坂有瀬こうこ
指折って俳句詠む子等園小春宮子
父に似た五百羅漢の笑む小春愛燦燦
小六月縁側の婆動かざる月音
雀乗るみ仏の手や小六月遙夢
帰りまた富士くつきりと旅小春HITOHA
小春日のラテと苦めのチョコレート梅野ゆみ子
太閤の金箔瓦掘る小春秋山白兎

今月の気になる1句

わたあめの袋の中の小春かな
選に入れかけて、よくよく考えると意味がわからなくなった。
ふわふわもこもこパステルカラーの綿飴は小春のイメージそのもの。
でも、小春はやはり明るい青空と大気のぬくもりを感じてこそのもの。
袋の中に閉じ込めておくのはもったいなく、残念な小春でした。

選者吟

カピバラの右目左目小六月千種

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