「月」
俳句では、「月」といえば秋の月のことです。
澄んだ秋の夜空にかかる月は古来からたくさんの詩歌に詠まれてきました。
今回の選者
田丸千種(たまる ちぐさ)
日本伝統俳句協会本部講師 俳歴30年
第26回日本伝統俳句協会賞受賞
句集『ブルーノート』で与謝蕪村賞奨励賞
第26回日本伝統俳句協会賞受賞
句集『ブルーノート』で与謝蕪村賞奨励賞
特選1
烏帽子岩まで月の道あり波の絶え湘
選評
サザンの歌詞でおなじみの「烏帽子岩」。
今、そこへ月光を踏んで渡れそう。なぜなら、波が絶えたから……。
上句が大きく字余りで(「えぼしまで」と読ませたいのかもしれないが)、どこかたどたどしい。
なのに、くっきりと情景が浮かんで魅力的。整えない句調が、作者の「烏帽子岩愛」をストレートに伝え、月の海が鮮やか。
今、そこへ月光を踏んで渡れそう。なぜなら、波が絶えたから……。
上句が大きく字余りで(「えぼしまで」と読ませたいのかもしれないが)、どこかたどたどしい。
なのに、くっきりと情景が浮かんで魅力的。整えない句調が、作者の「烏帽子岩愛」をストレートに伝え、月の海が鮮やか。
特選2
骨壺のちと温かく月の道桃
選評
特殊な状況だ。物語の世界かもしれないが、「ちと温かく」が我が身を客観視していて、そこがリアル。
悼む気持ちを月光が昇華させる。骨壺の温度を感じながら月光を浴びて歩く道は、幽明のあわいを行くようでもある。
悼む気持ちを月光が昇華させる。骨壺の温度を感じながら月光を浴びて歩く道は、幽明のあわいを行くようでもある。
特選3
満月や茅空土偶顎上げて舘岡千種
選評
世はちょっとした縄文ブーム。茅空(かっくう)土偶は、南茅部で発見された中空土偶という意味だそうだ。
丸顔の、若者とも童女とも菩薩とも見える素朴な面差しが少し上を向いている。あたかも満月と相照らし合うように……。
悠久の時を月と交信し続けているかのような広がり。
丸顔の、若者とも童女とも菩薩とも見える素朴な面差しが少し上を向いている。あたかも満月と相照らし合うように……。
悠久の時を月と交信し続けているかのような広がり。
佳作
僧堂の柱はしらの月の影蕨 一斗
摩天楼赤き点滅月ひとつ山椒魚
雲水の墨衣ひく良夜かなみち子
マッコリの酔ひ柔らかにけふの月隣安
月白や人工島の未来都市小春
ワイキキに海の匂ひの月上るモペット
瀬田川を沈め唐橋月仰ぐ本陣
搦め手に月のつたりと白鷺城ぐずみ
一軸に月を祀りて老いにけり月草
コークスの銀の煙突月上る 有瀬こうこ
満月や大河のたひらかに流る愛燦燦
子を乗せたペダルも軽し月夜かな銀牡丹
閨の月ゆるりと右へ傾ぎけり雲母
月高し水たまり踏む象の黙佳月
産土の海暮れて行く月の道みなと
摩天楼赤き点滅月ひとつ山椒魚
雲水の墨衣ひく良夜かなみち子
マッコリの酔ひ柔らかにけふの月隣安
月白や人工島の未来都市小春
ワイキキに海の匂ひの月上るモペット
瀬田川を沈め唐橋月仰ぐ本陣
搦め手に月のつたりと白鷺城ぐずみ
一軸に月を祀りて老いにけり月草
コークスの銀の煙突月上る 有瀬こうこ
満月や大河のたひらかに流る愛燦燦
子を乗せたペダルも軽し月夜かな銀牡丹
閨の月ゆるりと右へ傾ぎけり雲母
月高し水たまり踏む象の黙佳月
産土の海暮れて行く月の道みなと
今月の気になる1句
月みればなみだこぼるる被災の夜
想像を絶する災害が続く。掲句は、叫ぶような生な感情がそのまま詠われていて、俳句云々以前に胸打たれる。
どんな状況下にあっても、美しく、すべてを包み、癒やす月。日本人にとっての「月」の存在を再認識させられた一句。
一日も早く平常を取り戻されることをお祈りいたします。
どんな状況下にあっても、美しく、すべてを包み、癒やす月。日本人にとっての「月」の存在を再認識させられた一句。
一日も早く平常を取り戻されることをお祈りいたします。
選者吟
シャンパンの泡立ち上る月の窓千種
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