6月の投句箱

2018年6月のお題「蟻(アリ)」

蟻は、もっとも身近な生き物の一つですね。

今回の選者

田丸千種(たまる ちぐさ)
田丸千種のアイコン
日本伝統俳句協会本部講師 俳歴30年
第26回日本伝統俳句協会賞受賞
句集『ブルーノート』で与謝蕪村賞奨励賞

特選1

蟻どちの曳きゆく虫のまた動く若菜

選評

蟻を見る。蟻の曳いているものを見る。
この句、蟻たちが曳くものは骸ではない。結構な余力を残して生きている。
この小さな生命の現実をただ見据えている作者の目は、ほぼ神の目。
どこかホラーでどこかサイエンス。真実のありのままの描写が詩となった一句。

特選2

一筋がゆらめき伸びる蟻の列瀧まさこ

選評

「一筋がゆらめき……」とくれば、それは「光」や「炎」、「煙」などタテにゆらぐものと相場が決まっている。
この句は黒くて固くて平面的に続いている「蟻の列」であるところが面白い。乱れたり、まばらになったりする姿が不確かに揺らぐようだと感じられたのだろう。
伸びる先が、異次元へ向かっているような余韻もある。

特選3

良く喰うて働かぬ蟻石仏にみなと

選評

生活に身近な蟻は、寓話やことわざなどに登場して人に重ねられる。
今回の投句でも多く見られた中、いっそここまで言ったかという感じの一句。
無為徒食を思わせる蟻に、石仏を配して印象が飛躍した。すべてを許し包み込む神仏の懐は深い!

佳作

蟻の路丹波但馬を越えにけり藤椙大都
まれに居る冒険心の強い蟻徐々亭
湧き出づる染みの如くに蟻の列きゆみ
蟻の道ここは国道四号線孝雄
蟻の群梃子の動きも見せながら祥子
見つめれば賢者の顔を傾ぐ蟻鷹の爪
一匹の蟻這うてゐる会議室空木
蟻の道糖片ひとつ置いてやり緑陽
ひと鍬に山河となりて蟻の道水無子
蟻の列アラビア文字に蠢きぬ彩楓(さいふう)
一列に蟻より黒き蟻の影甘ん
迷ふたび巣に戻りをり蟻の道あざみ野
翅ひとつ砂上に蟻の残したる銀雨
後退りしながら骸蟻穴へモペット
苔寺の苔滑りつつ走る蟻本陣

今月の気になる1句

ビル街の蟻と暮しを語り合ふ
都会のビル街にも蟻が這う。蟻にとって、人間にとってのビル街とはいかなるものか。
「暮らしを語り合ふ」のフレーズが、たぶん作者の意図以上に具体性が出て、蟻の擬人化が逆効果になってしまったようだ。
蟻と対等になるという面白い句ではあったが、ごめんなさいした一句でした。

選者吟

山の蟻けふ初めての人に遭ふ千種

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