6月の投句箱

夜の川辺を飛ぶ蛍の写真

「蛍」

夜の水辺の幽玄な世界に誘ってくれるのが蛍の光だ。蛍の光の明滅を追っていると、すっかり日常を忘れさせてくれる。
が、案外人懐っこく、胸に止まってくれたりするのもうれしい。

今月の選者

𠮷村玲子(よしむられいこ)
紺色のニットカーディガンを着た、ボブカットで笑顔の女性の写真
(公社)日本伝統俳句協会評議員、「花鳥諷詠」編集委員
日本伝統俳句協会関西支部企画部長、ホトトギス同人
円虹会員、三田(さんだ)俳句協会会長

庭に巣箱をおいて、毎年四十雀が巣立って行くのを楽しみにしています。
ときには雀も巣立っていきますが、巣の出来具合の違いも面白いです。

特選1

手のひらに光の重さ蛍かな霜川このみ

選評

蛍を手に乗せて、蛍の匂が指に残ったという着想の句はよく見かける。が、掲句は、手のひらに蛍を乗せて光の重さを感じたところに独自の発見がある。
一つの小さな蛍の光が、とても大切な命の輝きを放っているのである。

特選2

掌を広げ蛍に闇を返しけり立ち漕ぎブランコじゅん

選評

両手を合わせて蛍を捕ったまま持っていた作者が、手の中の蛍の光を暫し楽しみ、また闇へ蛍を戻してやったのだ。
普通なら「蛍を闇に返しけり」と叙すところを、作者は「蛍に闇を返しけり」とした。この逆転の発想により、蛍を闇の主とした自然への敬意が感じられる句となった。

特選3

蛍籠沢の闇ごと持ち帰る呉帆

選評

沢に来て蛍狩りをした作者。実際は、沢の闇を持ち帰ることは、できないのだが、透けている籠に蛍を入れた時、闇も入ったと感じたのだ。
家で蛍籠を置いたときも、沢の闇の余韻を味わったことだろう。

佳作

蛍火のもつれ合ひけり古戦場勝本熊童子
卓袱台を横切る螢萱の家檜鼻ことは
ほうたるの息吹感じる病み上り里山まどか
闇に生き闇に還りし蛍かな古織沃
大宇宙生まるる如く初蛍嘉門生造
神々の恋文つづる螢かなきりこ
蛍火やザビエル像の守る街春よ来い
木の橋の奥に木の橋夕ほたる押見げばげば
母さんの手の温もりや蛍狩り 木村隆夫
掬はむと闇を掬うて蛍狩英ルナ
ツクヨミに許され蛍ひかめけり渡辺香野
蛍やかへりの闇の深きこと酒梨
覗き込む顔の近さや蛍狩珍酒
息潜め蛍の中を屋形船中島走吟
初蛍鼻緒喰込む宿の下駄釜眞手打ち蕎麦

気になる句

端蛍群れに馴染めぬ吾似たり
「端蛍」とは群れから外れている蛍のことだろう。群れに馴染めない自分を見るような気持になった作者だ。が、作者の思いをしゃべりすぎると余情のない句となる。読者に想像の余地を残すのも大事である。

《添削例》 吾の胸に外れ蛍の止まりたる

選者吟

奥琵琶の闇の湿りや初蛍玲子

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