6月の投句箱

緑の山々

「万緑」

「万緑叢中紅一点」という王安石の詩から生まれた季題。
夏は来ぬ。見渡す限りの緑。そのスケールに溺れてみましょう。

今月の選者

池田雅かず(いけだ まさかず)
アロハシャツを着た男性の写真
卯浪俳句教室「卯浪OSAKA」講師
https://unami-osaka.jimdosite.com/
日本伝統俳句協会関西支部企画委員
公益財団法人虚子記念文学館常務理事
精神対話士

“ふれあって・こころ・ゆたかに“
たった十七音の言の葉を媒介にして、自然とふれあい、人とふれあい
「今・ここに・生きていること」
その実感と歓びを共感の心でシェアすること。
それが私にとっての俳句です。

特選1

万緑の怒濤に沈む家並かな蒼鳩 薫

選評

まるで大海のようにうねり続く大万緑。マッチ箱のような家がその万緑に溺れるように貼り付く。国土の狭い日本では深山幽谷にも人々の暮らしが息づく。万緑叢中に暮し在り。大自然と人間との共生を詠う句となった。

特選2

万緑や火星に残る水の痕石爽子

選評

万緑と火星。意表を突く取り合わせ。これは隠されたメッセージがありそうだ。太古、火星には水があった。ということは緑も?
「地球人たちよ、このかけがえのない万緑を守るのです」火星人からの言伝が秘められているような。

特選3

万緑に子どもできたること叫ぶ参山

選評

世界の中心にではなく万緑に向かって叫ぶ。万緑とは生きとし生けるものの源泉である。私たちが授かる命もこの大自然の営みのひとつ。すべての命は循環しているのだ。つまりこの子も万緑の申し子なのである。万緑への悦びの報告は即ち命への讃歌だ。

佳作

万緑へ億千万の雨の粒菫久
万緑や白き乳房を吸ふ赤子星月彩也華
地図になき村となりけり万緑裡英世
万緑や九十九折なす峠道佐々木宏
万緑や佳境に入る野外劇ポンタロウ
万緑や乳白色の露天風呂酒井春棋
万緑や麓に緩き牛の声夕弥
万緑や吸ひ込む息の青きこと藤田ゆい
万緑にひとつ突き出る天狗岩猿虎
万緑を超え万緑の中走る城内幸江
万緑を背負つて来たる歩荷かな多々良海月
万緑やバードスコープポケットに石塚彩楓
万緑や地球の肺を膨らます砂楽梨
万緑や尾根から尾根の大鉄塔江見 陣暮
万緑の中を分け入る大河かな塩野谷慎吾

気になる句

万緑や真っ只中にいて孤独
大自然の中の小さな自分という構図の対照に、万緑のスケール感と作者の心情が伝わってくる句です。ただ気になる点が三つ。

「真っ只中」→「真つ只中」
「いて」→「ゐて」と文語・旧仮名遣いを踏襲しました。

最後に下五は叙情ではなく叙景にしました。「孤独」だと気持ちをストレートに言われれば「そうなんですね」と鑑賞がそこで止まってしまいます。叙景にしてそこから感じる情は受け手に預けてみました。


万緑の真つ只中にゐてひとり

選者吟

落人を祖に万緑の襞に住む雅かず

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