5月の投句箱

葉桜

「葉桜」
そこに桜が咲いていたことを忘れかけた頃、今度はみずみずしい桜の若葉が人々の目を奪う。
「桜」と付いても、葉桜は初夏の季語。

今回の選者

長谷川槙子(はせがわ まきこ)
鎌倉一条恵観山荘の庭園で見つけた「猪の目」(いのめ)。ハート形に見えます。
1962年生まれ
都内女子校の国語科講師。鎌倉に住み、吟行をこよなく愛する。
卯浪俳句教室講師。

特選1

牛の脚はみ出す乳房花は葉に光素

選評

脚をはみ出した乳房の量感が、葉桜の頃の牛の健やかさをよく表している。
乳房の淡いくれないは、花盛りの桜の色を彷彿とさせもするという妙。観なければ詠めない句。

特選2

葉桜やボール蹴る音投げる音一日一笑

選評

人々が賑やかに、さまざまな球技に興じる河原か公園〜葉桜とボールの音を詠むだけで、大きな景が鮮やかに浮かび上がった。軽やかなリフレインも初夏らしい。

特選3

葉桜の影のさざめく絵本かな山海和紀

選評

桜の樹の下に絵本を広げる幼子。親も一緒かもしれない。
省略が効いて、微笑ましい景が強く印象づけられる。
影がざわつこうとも、絵本なら十分楽しめるでしょう。

佳作

葉桜を雨のあらへる夕べかな工藤遊子
葉桜や市民マラソン給水所春幸
葉桜や湯の香に止まる下駄の音赤福餅
天守より伊予の葉桜一望す菫久
葉桜や補助輪はずす日曜日香田ちり
哲学の道や葉桜呟けり柊二
犬に歩を合はせて歩む花は葉に立部笑子
葉桜や君の笑顔が好きだった猿虎
葉桜や駅舎を抜ける海の風久森ぎんう
葉桜や洋館おほき城下町工藤遊子
葉桜や背番号なきユニフォーム清瀬朱磨
葉桜や人に生きるといふ力風来
葉桜を路面電車のくぐりけり長谷機械児
葉桜や川の流れに沿う列車露崎一己句
葉桜や光も風もある世界飯田夷佐久

気になる句

葉桜の言いわけ上手くなりにけり
花時より心なしか大人びた園児、または低学年の小学生の姿が浮かんだ。
上五に切字「や」を用いて、中七以下の内容を葉桜とはっきり離したい御句と感じた。

選者吟

葉桜の光連なる段葛槙子

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