8月の投句箱

蜩(ひぐらし)

2018年8月のお題「蜩(ひぐらし)」

夏の盛りを過ぎた頃から鳴き始める蜩。
蜩を見たことがない人も「かなかなかなかな……」という
澄んだ鳴き声には聞き覚えがあることでしょう。
油蟬や熊蟬など夏の蟬とは違った趣がある「蜩」の句をお待ちしています。

今回の選者

田丸千種(たまる ちぐさ)
田丸千種のアイコン
日本伝統俳句協会本部講師 俳歴30年
第26回日本伝統俳句協会賞受賞
句集『ブルーノート』で与謝蕪村賞奨励賞

特選1

ひぐらしや千段昇る立石寺風来子

選評

芭蕉が「閑さや岩にしみ入る蝉の声」を詠んだ有名な山寺。山肌にはり付くような石段が奥の院まで続く。あえぎながらも昇るほどに、蜩の声に浄化されていくような味わい。
「立石寺」が尊い。芭蕉の句との「蝉」つながりは、この句の鑑賞においては意識のほんの片隅にあればいい。

特選2

蜩の十重に二十重に石切場銀雨

選評

山を覆う緑の中に突如、岩石をむき出しにした石切場が現れる。
大自然を削る人間の営みは時に無残をさらすが、それを癒やすように蜩が幾重にも鳴き響く。
山と人間と蜩……、その最も小さな蜩が大きな景色を包んでいる。

特選3

朝日子に蜩のはね透き通る真夕

選評

「ひぐらし」とはいえ、薄明の朝からも鳴く。そんな蜩に朝日がさす。
季節の進み方が早く感じられるこの頃。蜩は時を惜しむかに一身を透かせ、精いっぱい鳴き澄む。
「朝日子」の措辞が明るくレトロで詩情がふくらむ。短くも輝かしい秋の1日の始まりだ。

佳作

ひぐらしの道なり辿るなくしもの涼太
蜩のはたと鳴りやむ鹿威し松楠
かなかなやビー玉転ぶ音もなく隠岐灌木
蜩や淋しき人になりたがり城内幸江
蜩や時ゆるやかに山の宿dragon
蜩や今も廻れる水車小屋みい
蜩やわき水つたふ喉仏月花
蜩の音にたゆとうてゐる寝覚野衣
蜩や昨日と違ふ向きに寝る菊池洋勝
かなかなや湖底に沈む村一つ彩楓(さいふう)
蜩や早風呂済ます父の背ムック
蜩に遊び惜しみて帰りけり本陣
かなかなの降り積むカフェの木椅子かなモペット
蜩や亡父のシャツを着る案山子こいちゃん
入相の賑はふ街とかなかなとぎぷす

今月の気になる1句

火星まで蜩の翅濡れてをり
今年の夏から秋にかけて、火星が地球に接近してより赤く見えるという。
そんな火星まで蜩を近づけたロマンチシズム。壮大な詩情。
……と、かなり魅力を感じたが、「火星まで濡れる」はないよね!
と、つい事実がブレーキをかけてしまった。胆力の無い選者でごめんなさいでした。

選者吟

ひぐらしや金閣の金暮れ残る千種

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