5月の投句箱

鯉のぼりの写真

「鯉幟」

子供が鯉幟を喜びそうな時は、社宅やマンション暮しだったので、我が家ではついに鯉幟を立てることはなかった。
山間の村などで悠々と泳ぐ鯉幟をみると、なんだか誇らしい気分になる。

今月の選者

𠮷村玲子(よしむられいこ)
紺色のニットカーディガンを着た、ボブカットで笑顔の女性の写真
(公社)日本伝統俳句協会評議員、「花鳥諷詠」編集委員
日本伝統俳句協会関西支部企画部長、ホトトギス同人
円虹会員、三田(さんだ)俳句協会会長

庭に巣箱をおいて、毎年四十雀が巣立って行くのを楽しみにしています。
ときには雀も巣立っていきますが、巣の出来具合の違いも面白いです。

特選1

風を呑み風を起こせよ鯉幟一樹

選評

鯉幟に期待をかけて、おおいに鼓舞する作者の言葉が力強い。
「風」のリフレインにより、風を一杯に孕んだ鯉幟が、大きくうねりながら、勢いよく空に翻る様子も思い浮かべることができる。鯉幟に呼び掛けているが、実は、子供に掛ける親の願いなのだろう。

特選2

鯉のぼり影はしづかな伴走者海沢ひかり

選評

空高く泳ぐ鯉幟。そして、その下の瓦屋根や、地面には必ず静かに鯉幟の影も翻っているのである。
見過ごされそうな「影」に注目した作者は、影あってこそ主役の色彩豊かな鯉幟も心地よく泳げるのだと思い至った。
人の気付かないところを切り取るのも俳句作りのポイントだ。

特選3

繕ひし祖母の針あと鯉幟つく坊

選評

「さあ、鯉幟を立てましょう」と思ったときに、ふと目についた御祖母様が繕った針のあと。
幼い頃に、繕っておられるところを見ておられたのだろう。
三代以上受け継がれてきた大事な鯉幟に、家族の愛情がたっぷり注がれている。

佳作

ぺこぺこのお腹泳げぬ鯉幟カミムラフサコ
醤油屋の白壁高く鯉幟石塚彩楓
畳まれて日の匂ひ吐く鯉幟ぶえもん
べランダの大きな未来鯉のぼり椋本望生
園児らの端切れをつぎし鯉のぼりdragon
山と山繋ぐ千尾の鯉幟木村隆夫
移住して初めて揚げる鯉のぼり北川茜月
下ろされて布に戻りぬ鯉幟多々良海月
病室の花瓶に飾る鯉幟神島六男
園庭の声のいきほひ鯉幟木々梶取
鯉のぼり向かい風には草の味茗乃壱
三代の人生負うて鯉のぼり闇太郎
復興の空は無傷や鯉幟太刀男
川風に目のいきいきと鯉のぼり満月
鯉幟泳ぐ空には風の川一日一笑

気になる句

鯉幟 親の気持ちと 共に舞う
鯉幟は、子供が元気に育ってほしいという親の願いの象徴でもある。
掲句は、親の気持ちが、鯉幟と「共に舞う」というところに率直に出ているが、「願い」と言ったほうがより正確かと思う。
また、伝統俳句では、一句を続けて表記して、分かち書きはしない。

《添削例》 鯉幟親の願ひと共に舞ひ

選者吟

鯉のぼり稚児の泣き声膨らんで玲子

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