第30回 日本伝統俳句協会賞・受賞作品紹介

第30回 日本伝統俳句協会賞
「能登の揚げ浜塩田」宮下末子

塩田の千畳礁初凪げる

東雲に七つ島置く初明り

麗らかや塩田開き砂開き

春光の空へ気合の潮を撒く

春潮の桶に踏み込み撒く矜持

風光り撒き鏤める潮光る

塩田の砂の筋目の春日影  

塩田へ花の塵ふる鳥語降る

潮を撒く五月の光降りかざし

明日の晴れ信じ潮撒く大夕焼

日焼け濃し潮撒く気骨五十年

熱き砂掻く塩田の大西日  

濾過槽へ熱き砂抛ぐ炎天下

濡れし砂撒く渾身の玉の汗

潮に焼け日に焼け能登の塩作り

本焚きの五十四度といふ極暑

船虫の竈の胴這ふ肩を這ふ

煮泡噴き塩の花咲き明易し

撒く潮にふと新涼の匂ひあり

夜釜守る期待膨らむ星月夜

夜釜更く小屋の片隅ちちろ鳴く

終の薪継ぎ足し長き夜の更くる

釜火守り二十三夜の月仰ぐ

秋日濃し煌めく熱き塩掬ふ

爽やかに塩揚ぐ所作にある安堵

焚き上ぐる塩秋晴の朝が来し

寄せ砂の塔に菰巻き雪囲

閉ざされし釜屋へ浪の花絶えず

虎落笛藩政の世を偲びゐし

伝統を守り釜屋守り年暮るる

 

第30回 日本伝統俳句協会賞新人賞
「プリズム」小林含香

白梅やかをりゆかしき上屋敷

古硝子プリズムめきて寺の春

すきまより如来のひかり春障子

水琴に風鐸かさね春の月

囀や木漏れ日受くる城の跡

側溝のしつぽ子猫のかくれんぼ

若楓粉ひく音の水車かな

参道の消失点へ青葉風

立葵とほきフェンスの草野球

首元へたたき甘やか天瓜粉

ゴスペルのあふるる窓や梅雨晴間

夕立晴みづのにほひの駅に着き

崩れゆくどの形代も真白なる

流灯や闇の行方を照らしつつ

月涼し秘仏の扉ひらきけり

天の川われにとどかぬ光あり

鈴虫や雨のかすかににほふ夜

倒木の空洞ふかく野分後

かなかなや祖父の通ひし寺の句碑

天衣なき仁王へ菊のかをりけり

新蕎麦や三種の汁をほしいまま

仕事場にゆひなほす髪今朝の冬

息白し柏手ひびく社の夜

末吉のみくじをむすび冬めきぬ

はしりだす帯解の子のスニーカー

散紅葉おいなりさんの屋根は錆び

落葉掻土のにほひの祠かな

訃報受く雪ふりやまぬ夜半の窓

凍星や歓楽街のかへりみち

日脚伸ぶ骨董店の金時計

 

第30回
日本伝統俳句協会賞
佳作

第一席  「一歩二歩」    名木田純子

第二席  「樹  氷」    山本 素竹

第四席  「風の訪れ」    本郷 桂子

第五席  「遍  路」    福家 市子

 

☆佳作作品は機関誌「花鳥諷詠」3月号に、本選選者の選評・選考経過・受賞者のことばは4月号に掲載。
☆佳作三席は受賞者が辞退されたため取り消しいたしました。