第28回 日本伝統俳句協会賞・受賞作品紹介

第28回 日本伝統俳句協会賞
「雪月花」介弘紀子

月光に花と化しゆく雪の精

風花を掬ひ上げたる月明り

青き星明りを纏ひ雪女郎

雪女共に夜遊び楽しまん

はや別れ樹海へ消えし雪女

紅富士となりゆく雪の夜明けかな

富士よりの寒月連れて戻る旅

はや花の消息届く頃となる

鯖街道目路の限りの花の雲

奥琵琶の波の騒めく花の闇

汀へと落花を返す波のあり

花の闇淡海の波を眠らせず

花冷をきざはしに踏み御陵へと

花の風自由に抜くる四足門

飛花落花淡海へ舟を漕ぎ出さむ

奥琵琶の空を昏めて飛花落花

水底に眠れる万の花の霊

爛漫の花に息呑む隠れ里

匂やかな月を上げたる花の雲

まだ遊ぶ声高原の月涼し

満ちてゆく月に膨らむ旅情かな

果たし得し再会月に濡れながら

着水の鴨に乱るる月の波

月隠す雲無情とも有情とも

日々変はる月の名にある詩魂かな

篝火の爆ぜ月焦がす野外能

泥眼の面曇らす月の翳

露けしやスーパームーンといふ一夜

月の友送りし後の独りかな

俳諧の道とは月の道なりし

 

第28回 日本伝統俳句協会新人賞
「夏 日」渡辺光子

なめらかに水脈開ききる夏の航

初夏の青を違へる潮目かな

南風とほくの草の香を連れて

陵といふ夏草の起伏あり

葦切のこゑ草丈を突き出づる

通し鴨雨降り初めてゐて一羽

甘き香の雨が降るなり花蜜柑

月光へ白あぢさゐの浮かみゆく

子燕の口ひし形に親を恋ふ

雨だれのひかり涼しき大伽藍

鹿の子の瞳を濡らす神の苑

プードルを抱きつつ跳ねて祭客

眉山を細く整へ祭人

息継ぎの逞しくあり祭笛

揺れもして献灯高き宵祭

半月の宮へ神輿の着きにけり

蜜豆の豆の塩味あはく消ゆ

ほととぎす参らむとする山は晴れ

墜としゆく漆黒の影揚羽蝶

手の甲に口拭ひけり岩清水

青蘆に舟ひとつ来て日暮かな

川蜻蛉翅平らかな群れてをり

釣竿の手入れをしつつ夕端居

ささめきに月下美人を褒めにけり

秘仏見し眼を閉ぢて髪洗ふ

食前酒小さく酌みし夏座敷

白扇や過日の雨を語りをり

杉箸の木目正しき鱧料理

夏の月梢を離れゆく青さ

樟に幣三夏の白をつきとほす

 

第28回
日本伝統俳句協会賞
佳作

第一席「望郷の念」森脇杏花

第二席「冬の浪」山本素竹

第三席「こんな日は」岡田順子

第四席「月の湖」剣持せつ子

第五席「金魚掬ひ」一倉小鳥

第六席「おとな」沢村鼎

 

☆佳作作品および選考経過は「花鳥風月」3月号に、本線選者の選評・受賞者のことばは4月号に掲載しております。